講演会・セミナー

2017年10月28日(土)
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)
第5回パーキンソン病ナース研修会共催セミナー(東京)


開催日時:2017年10月28日(土)12:15〜13:15
開催場所:品川プリンスホテル アネックスタワー5階 大山・石鎚
座長:柏原 健一先生(岡山旭東病院神経内科)
演者:坪井 義夫先生(福岡大学医学部神経内科学教室)
演題:「ナースに知っていてほしいパーキンソン病の基礎知識」

●パーキンソン病の疫学と原因

パーキンソン病は稀な疾患ではなく、日本人の患者数は28万人と推測される1)。しかし、受診率や治療率はまだ低く1)、パーキンソン病の啓発・周知が必要である。また高齢化に伴い、今後は罹患率の上昇とともに、高齢患者の増加に直面することが懸念される。

パーキンソン病では、中脳黒質神経細胞の変性・脱落によるドパミン欠乏や、黒質神経細胞、神経線維などにレビー小体の蓄積が特徴的である2)。レビー小体は黒質や大脳皮質に先立って嗅球や下部脳幹部、自律神経などに蓄積するため、パーキンソン病の診断前から、嗅覚障害や便秘、意欲低下、レム睡眠行動異常症(RBD)などの非運動症状がみられる3)。その後、レビー小体の蓄積が黒質まで及ぶと振戦や前屈歩行、小刻み歩行のなどの運動症状が出現し、ついには蓄積は大脳皮質にまで達する。

●早期診断の重要性と留意すべき症状

他の疾患と同様に、パーキンソン病でも早期診断は重要である。その理由として、(1)運動機能が変化した原因が分かり、患者の不安が取り除かれる、(2)早期の受容を目指すことが可能、(3)早期の治療開始により、進行の抑制が図れる、(4)今後の症状の進行を踏まえた家族・生活環境の整備や公的支援制度の活用が可能となり、より安定した生活の維持につながる――などが挙げられる。

パーキンソン病の運動症状は通常、左右のどちらか一側で発症し、その後、他側に進行する「N字型」または「逆N字型」の進展パターンを示す2)。主な運動症状には動作緩慢(無動)や振戦、筋固縮(強剛)、姿勢保持障害(姿勢や歩行の異常)などがある。運動症状の中核である動作緩慢では、素早い反復動作が障害されやすく、歯磨きや洗髪、調理などの日常動作が緩慢となり、それが発症に気づく契機となることが多い。また、仮面様顔貌も特徴的である。振戦はパーキンソン病患者の60%程度にみられ4)、左右いずれか一側に強く出現する。安静時や歩行時に目立ち、緊張・精神的負荷により増強する。

これらの運動症状は主にドパミン欠乏に起因するが、認知機能や精神機能もドパミンの影響を受けるため、パーキンソン病患者では睡眠障害や疲労、注意・記憶障害、気分障害、消化器症状などの非運動症状が高い頻度で生じる。
 不眠やむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、RLS、または下肢静止不能症候群)、RBDなどの睡眠障害に対しては、非ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤の使用も検討するが、睡眠導入剤やドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)により日中の眠気が増強する場合もあり、注意を要する。抑うつ症状や意欲減退などの気分障害が生じた場合は、運動や生活リズムの調整のほか、ドパミン補充療法を十分に行っているかなどを確認する必要がある。また、このような患者への励ましは逆効果となる場合もあり、「やる気が出ないのは、すべて脳のせいなのでしかたがない」と患者に思わせるのも一法である。また、患者の多くに消化器症状がみられるが5)、便秘や排便障害により、腸閉塞を合併するケースもあることから、規則正しい食事や酸化マグネシウムなどの薬物療法により改善を図る。

これらの非運動症状はドパミン血中濃度に左右されるため、日常生活のなかで症状の変動が生じることを認識しておく必要がある。

●パーキンソン病の診断と治療

臨床的には動作緩慢に加え、振戦、筋強剛、姿勢保持障害のうち1つ以上の症候がみられた場合、パーキンソン病と診断される。初期のパーキンソン病は、進行性核上性麻痺や多系統委縮症、血管障害性パーキンソン症候群などの類似疾患との鑑別が困難だが、発症早期の転倒やレボドパへの反応性の悪さなどがレッドフラッグサインとなり得る6)。実際の鑑別には、MIGB心筋シンチグラフィーや脳血流SPECT、2014年から使用可能となったドパミントランスポーターシンチグラフィーなどが有用である。

治療の中心はドパミン補充療法などの薬物療法だが、並行して運動療法を導入する。同時に、患者の理解を得て具体的な目標を設定することが治療成功のカギとなる。
 レボドパの血中濃度半減期は短いため、重症化に伴い頻回に投与して血中濃度を維持するが、さらに進行するとウェアリング・オフ現象やピークドーズジスキネジアが出現する。ウェアリング・オフ現象に対しては、レボドパ投与回数の調整や、ドパミンアゴニスト、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬などの投与で対応する。それでも効果不十分な場合は、外科手術で淡蒼球内節あるいは視床下核に電極を埋め込み、電気刺激を与える脳深部刺激療法(DBS)や、レボドパ空腸持続投与療法(LCIG)などを検討する。

●多職種連携による対応と看護師の役割

 LCIGでは胃瘻を造設し、留置したチューブを通してゲル状のレボドパ製剤を空腸へと持続的に投与する。空腸に直接注入することで、レボドパ血中濃度の変動による影響を防ぎ、ウェアリング・オフの改善を図る。

 当院では、2016年のLCIG導入以降、多職種によるチームで対応にあたっている。毎月1回開催するカンファレンスでは、神経内科や消化器外科の医師・看護師、歯科口腔科医、薬剤師、臨床心理士などが対象患者のLCIG適応の是非について検討を行っている。例えば消化器外科医は手術リスク、臨床心理士は認知症の有無や精神状態、理学療法士・作業療法士は日常生活動作(ADL)や転倒リスクなどを主な懸念事項として評価し、その結果をチーム全体で共有しつつ、検討を進めていく。

 チームの中でも、特に看護師が果たす役割は、外来でのLCIG導入の意思決定支援から消化器外科医との連携、チューブ・ポンプ管理まで多岐にわたるが、今後は退院後のケアのためのコールセンターの開設や、介護者や訪問看護師の教育などへの取り組みも進めていきたい。患者・家族を支える周囲にも働きかけることで、治療が円滑に進み、より長期にわたるQOL維持につながるのではないかと期待している。

●文献
1)MHLW patient research2015
2)水野美邦, 近藤智善 編: よくわかるパーキンソン病のすべて. 永井書店, 東京, 2004.
3)頼高朝子: 日内会誌. 103: 1854-1860, 2014.
4)柳澤信夫: 日内会誌. 77: 1378-1382, 1988.
5)Khoo TK, et al.: Neurology. 80: 276-281, 2013.
6)Postuma RB, et al.: Mov Disord. 30(12): 1591-1601, 2015.