講演会・セミナー

2017年8月27日(日)
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)
第4回パーキンソン病ナース研修会共催セミナー(大阪)


開催場所:大阪大学中之島センター10階 佐治敬三メモリアルホール
座長:村田 美穂 先生(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究
   センター 病院長)
演者:三原 雅史 先生(川崎医科大学神経内科学 特任教授)
演題:Duodopaの具体例

●パーキンソン病の症状とレボドパ長期投与に伴う課題

 パーキンソン病は徐々に進行する原因不明の神経変性疾患である1)。高齢化に伴い国内の患者数は増加傾向にあり、2014年の患者数は16.3万人と推定されている2〜4)
 パーキンソン病の症状は多彩で、筋固縮(筋強剛)、振戦、無動、姿勢反射障害といった運動症状(4大徴候)のほか、便秘などの自律神経症状、流涎、精神症状、睡眠障害、認知障害などの様々な非運動症状が出現する5,6)。しかし症状の中核は運動症状であり、運動症状への対応がパーキンソン病治療の中心となる。
 パーキンソン病では、中脳黒質神経細胞の変性・脱落により脳内のドパミンが減少し運動症状が出現するため、ドパミンを補うドパミン補充療法によって運動症状の改善が得られる7)。主なドパミン関連薬剤として、ドパミン前駆物質であるレボドパ製剤やドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)、MAO-B阻害薬/COMT阻害薬(ドパミン分解酵素阻害薬)、アマンタジン(ドパミン放出刺激/NMDA受容体遮断薬)などが用いられている。
 一方、ドパミン補充療法が長期に及ぶと、有効治療域が狭小化し、効果発現までに時間を要するディレイドオンや、オン時間が短縮するウェアリング・オフ現象、ジスキネジア(不随意運動)などの運動合併症が発現する1)。その原因として、ドパミンを保持するドパミン神経が疾患の進行に伴って変性・脱落し、線条体のドパミン濃度が血漿中のドパミン濃度に依存するために、結果としてドパミン放出が不安定になるためであると考えられる8)こうした背景から運動合併症の予防法として、ドパミンの血漿中濃度を一定に保ち、持続的にドパミン刺激を与える「持続的ドパミン刺激(Continuous Dopaminergic Stimulation:CDS)」が注目されるようになった。

●持続的ドパミン刺激(CDS)を実現したDuodopa®治療

 CDSを実現する方法には、(1)経口薬の調整(レボドパの頻回投与、MAO-B阻害薬/COMT阻害薬の併用、長時間作用型ドパミンアゴニストの投与)、(2)投与経路の工夫(アポモルフィンの持続皮下注射、レボドパ/カルビドパ経十二指腸的持続投与)などがある。そのうち、レボドパ・カルビドパ配合経腸用液を経胃瘻的に直接、空腸に投与するDuodopa®が、2016年9月に本邦で保険適用された。
 Duodopa®は、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の症状の日内変動(ウェアリング・オフ現象)の改善を適応とする9)。国内第U相臨床試験(M12-925試験)では、レボドパ・カルビドパ配合経腸用液(Duodopa®)の経鼻投与により、安定した血漿中レボドパ濃度が維持された10)。日本人を含むアジア国際共同第V相長期投与試験(M12-923試験)では、ベースラインに比べて、投与52〜64週時のオフ時間の有意な短縮や、日常生活に支障のあるジスキネジア(トラブルサムジスキネジア)のないオン時間の有意な延長が認められている(いずれもp<0.001、1標本t検定、対ベースライン)11)

●Duodopa ®治療の導入

 Duodopa®の導入にあたっては、まず使用中のすべてのレボドパ製剤をレボドパ・カルビドパ水和物経口剤に切り替えた後、経鼻チューブを設置し、レボドパ・カルビドパの配合経腸用液(Duodopa®)を空腸内に投与する。反応性を見ながら用量調整を行い、胃瘻を造設して専用の経胃瘻的空腸チューブを留置、経胃瘻投与に切り替えるという手順をとる12)
 導入後は、起床時に薬剤が充填されたカセットを専用ポンプにセットし、投与を開始。ボーラス投与で速やかに治療濃度域に到達させた後、日中は予め設定した用量を持続投与してレボドパ血漿中濃度を一定に保ち、急性のオフ症状に対しては追加投与を行う。従来のパーキンソン病治療と全く異なるシステムを用いた治療であるため、患者に対する十分な説明が重要となる。

●院内外の多職種連携と継続的なサポートが導入成功のカギに

 従来の薬物療法は主に神経内科医の主導で進められることが多かったが、Duodopa®治療の導入・維持にあたっては、院内外の多職種連携が不可欠である。神経内科医がDuodopa®の適応患者と判断した場合でも、患者本人の理解不足や希望との乖離があれば導入成功には至らない。それを防ぐには、患者をよく知る看護師やケアマネージャーなどの協力を得て、患者への十分な説明やサポートを行うことが必要である。また、胃瘻の造設や管理については、消化器科や放射線科の医師や看護師との連携や情報共有が重要となる。
 加えて、治療に対する患者の不安を取り除くことも重要なポイントとなる。日本人を対象に含むアジア国際共同第V相臨床試験(M12-921試験)では、31例中30例(96.8%)に副作用が発現し、特に切開部位痛が13例(41.9%)、過剰肉芽組織が10例(32.3%)に認められるなど、胃瘻や機器に関連するトラブルは、軽度のものを含めると大半の症例で生じる可能性がある9,13)
 実際の導入例でも、機器の操作への不安や胃瘻チューブ刺入部の発赤、膿瘍などによる不快感のため、Duodopa®治療に対する不安や拒否感が強く、導入後の薬剤反応性の不安定さも重なったため、経口投与に戻した症例を経験している。予想される合併症や副作用などの情報について事前に十分説明し、発生時には適切な処置を行うことで、重篤なトラブルへの発展を防ぐことは可能である。比較的若年の患者では、Duodopa®導入により職場復帰に至った症例もあり、適切な適応判断と周囲のサポートの重要性を実感している。
 Duodopa®治療は長期にわたるため、導入前だけでなく、導入後も含めた継続的なサポート体制の構築が欠かせない。進行期パーキンソン病の有用な治療選択肢の1つとして期待されるDuodopa®治療をスムーズに導入・継続するためにも、多職種連携やサポート体制を充実させることが重要である。

本邦未承認

1)水野美邦 編著: EBMのコンセプトを取り入れたパーキンソン病ハンドブック 改訂2版. 中外医学社,
  東京, 2007.
2)厚生省大臣官房統計情報部保健社会統計課保健統計室監修: 日本の疾病別総患者数データブック.
  厚生統計協会, 東京, 1995, p59.
3)厚生統計協会: 厚生の指標. 40(5): 32, 1993. 及び厚生労働省統計表データベースシステム
4)厚生労働省: 平成26年(2014)患者調査
5)久野貞子: Pharma Medica. 24: 29-33, 2006.
6)水野美邦 編: 最新医学別冊 新しい診断と治療のABC 39 パーキンソン病. 最新医学社, 東京, 2006,
  p56-62.
7)Poewe WH, et al.: Wenning Neurology. 47(6 supple3): S146-S152, 1996.
8)Olanow CW, et al.: Nat Clin Pract Neurol. 2(7), 382-392, 2006.
9)デュオドーパ®配合経腸用液 添付文書. 2016年8月改訂(第4版)
10)Othman AA, et al.: Clin Pharmacokinet. 54(9): 975-984, 2015.
11)社内資料: アジア国際共同第V相長期投与試験(M12-923試験)[承認時評価資料]
12)社内資料: デュオドーパ®トレーニング看護スペシャリスト用
13)社内資料: アジア国際共同第V相臨床試験(M12-921試験) [承認時評価資料]