講演会・セミナー

2017年6月18日(日)
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)
第3回パーキンソン病ナース研修会共催セミナー(仙台)


座長:冨山 誠彦 先生(青森県立中央病院神経内科 部長)
演者:織茂 智之 先生(関東中央病院神経内科 部長)
演題:パーキンソン病の治療

●パーキンソン病の症状と治療

 パーキンソン病は神経変性疾患としてはアルツハイマー病に次いで多く1,2)、中年期以降に高頻度で発症する2)。手足やあごなどが震える振戦、筋肉がこわばる筋強剛(筋固縮)と、運動緩慢や姿勢保持障害などの運動症状、そして自律神経障害や精神症状などの非運動症状が生じるのが特徴で、このうち運動症状は、中脳黒質の神経細胞の変性・脱落による、線条体におけるドパミン不足に起因する2)
運動症状に対する治療には、内科的治療(薬物治療)、リハビリテーション、外科的治療(脳深部刺激療法など)、移植療法といったものがあり、このうちで薬物療法とリハビリテーションが治療の基本となる3)。薬物療法で用いられる薬剤の種類は多く、ドパミンの前駆物質であるL-ドパ製剤をはじめ、ドパミン作動薬、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬、抗コリン薬、ゾニサミド、アデノシンA2A受容体拮抗薬などがある4)
 これらのうち、薬物療法の基本となるのは、脳内のドパミンの補充を目的とするL-ドパである5,6)。L-ドパは血液脳関門(BBB)通過後にドパミンに変換されるため、その効果は高い。しかし、L-ドパの血中濃度半減期は60〜90分と短いうえ5)長期に使用するとさまざまな運動合併症を引き起こすことが課題である2,5)。また経口摂取した場合には、胃排出能の低下やアミノ酸との競合などにより、吸収効率が低下するという問題がある7)。なお、L-ドパは腸管や肝臓や血液中など体のあちこちで分解されるのを防ぐため、通常はドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)との合剤として用いられる2,5)
 一方、ドパミン作動薬の血中濃度半減期は数時間以上と長いため、運動合併症の発現リスクは比較的低い6)。そのため、患者が若くて症状があまり強くない場合や、認知機能障害や精神症状があまり見られない場合には、ドパミン作動薬での治療開始を検討するなど6)、状況に応じた薬剤選択が求められる。半面、傾眠や突発的睡眠などの副作用には注意を要する。
 MAO-B阻害薬は脳内でドパミンを3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)に分解するMAO-Bを、COMT阻害薬は血液中でL-ドパを3-O-メチルドパ(3-OMD)に分解するCOMTを阻害する薬剤で、主にL-ドパの補助薬として使用される6)

●パーキンソン病薬物治療の戦略

 パーキンソン病では通常、発症後数年間は治療に対する反応性が高い「ハネムーン期」と呼ばれる時期が続く。しかし、病期が進み進行期に入るとウェアリングオフやジスキネジアなどの運動合併症が発現するようになり、さらに認知症などを発症し、在宅療養期を経て死に至る8)
 発症早期の薬物治療では、患者の日常生活動作(ADL)の改善が主目的となる。「パーキンソン病治療ガイドライン」(2011年)では、診断後、生活や仕事に支障があれば薬物療法を開始するとしているが6)、最近では、できるだけ早期に薬物療法を開始すべきという考え方が一般的である。その背景には、ドパミン不足に対する代償機構の発生を抑制して神経細胞を保護したり、脳の可塑性変化による症状改善への期待がある。半面、ウェアリングオフやジスキネジアの発現とL-ドパ投与量との関連が示されており9)、早期治療による副作用や将来の運動合併症の発現にも留意が求められる。
 進行期では、非運動症状の改善や運動合併症の予防、治療にも注力する必要がある。進行期は「治療の窓」(有効治療域)が狭くなり、ウェアリングオフやジスキネジアに加え、ディレイドオン(服薬から効果発現に時間を要する現象)やオンオフ(服薬時間とは関係なくオン・オフが瞬時に起こり、突然運動症状が悪化する現象)、ノーオン(薬剤を服薬しても効果が得られない現象)などの運動合併症が生じる。欧米の研究では、L-ドパ投与開始から約5年後には、ジスキネジアは20〜55%、ウェアリングオフは20〜63%で発現するというデータもあり10〜15)、L-ドパの投与期間の延長に伴い運動合併症の発現リスクが高まることが懸念される。
 正常あるいは病初期は、シナプス前D2自己受容体によるドパミン放出制御や、ドパミントランスポーター(DAT)による余剰ドパミンの再取り込みなど、脳内のドパミン保持・調節機能が働き、線条体のドパミン総量は一定に保たれる。しかし、進行期にはこれらの機能が失われるため、線条体のドパミン濃度が変動し、ウェアリングオフが生じる。同時に、線条体ドパミン受容体への間欠的刺激により、ドパミン受容体やそれ以降のシグナル伝達系の神経回路網に可塑的変化が生じ、やがてジスキネジアが発現すると考えられる。
 これらの運動合併症に対しては、L-ドパの分割投与やドパミン作動薬、L-ドパの分解を阻害するCOMT阻害薬の追加などにより血中L-ドパ濃度の安定化を図る。L-ドパの腸内持続投与によりL-ドパ血中濃度を安定させた結果、オフ時間、ジスキネジアともに改善したという報告もあり16)、持続的ドパミン刺激(CDS:continuous dopaminergic stimulation)の重要性が注目されている。
 CDSを実現する剤形や投与経路の工夫として、徐放剤や貼付剤、持続皮下注、腸管注入などが考えられる。このうち腸管注入については、胃瘻を介して空腸にレボドパ・カルビドパ水和物配合剤を直接投与する経胃瘻空腸内レボドパ持続投与療法(デュオドーパ®)が2016年9月に保険適用されている。

●脳深部刺激療法(DBS)との併用への期待

 脳深部刺激療法(DBS:deep brain stimulation)は、STN-DBSに代表されるように視床下核などに電気刺激を与えて運動合併症を抑制する、いわば「脳のペースメーカー治療」である。L-ドパに反応するパーキンソン病患者のうち、運動合併症が強く、副作用により薬剤の増量が困難であったり、認知症や著しい精神症状(幻覚やうつ症状)などがない患者が対象となる。75歳前後でも行うケースはあるが、原則的には70歳以下の患者が対象となる。DBSで治療の窓を広げ、薬剤量を減らすことにより、ジスキネジアの減少やオフの消失につながることが期待される。

1)Nussbaum RL, Ellis CE: N Engl J Med. 348(14): 1356-1364, 2003.
2)水野美邦, 近藤智善 編: よくわかるパーキンソン病のすべて. 永井書店, 東京, 2004.
3)織茂智之: 臨床神経. 57(6): 259-273, 2017.
4)浦部晶夫他 編: 今日の治療薬. 南江堂, 東京, 2007.
5)水野美邦 編著: EBMのコンセプトを取り入れたパーキンソン病ハンドブック 改訂2版. 中外医学社, 東京, 2007.
6)日本神経学会 監修、「パーキンソン病治療ガイドライン」作成員会 編集:パーキンソン病治療ガイドライン2011. 医学書院,
  東京, 2011.
7)Poewe W, et al.: Clin Interv Aging. 5: 229-238, 2010.
8)山本光利 編著:GP・レジデントのためのパーキンソン病テキストブック. アルタ出版, 東京, 2012.
9)Olanow CW, et al.: Mov Disord. 28: 1064-1071, 2013.
10)Montastruc JL, et al.: J Neurol Neurosurg Psychiatry. 57(9): 1034-1038, 1994.
11)Hely MA, et al.: J Neurol Neurosurg Psychiatry. 57(8): 903-910, 1994.
12)Dupont E, et al.: Acta Neurol Scand. 93(1): 14-20, 1996.
13)Koller WC, et al.: Neurology. 53(5): 1012-1019, 1999.
14)Rascol O, et al.: N Engl J Med. 342(20): 1484-1491, 2000.
15)Holloway RG, et al.: Arch Neurol. 61(7): 1044-1053, 2004.
16)Stocchi F, et al.: Arch Neurol. 62(6): 905-910, 2005.